第72章 再生
馬車に乗って、オーウェンズ病院まで向かう。
通された病室はまさにこの医院の長たる者が使うに相応しい豪勢な部屋で、そこにただ一人、思わしくない顔色のリカルドさんが横たわっていた。
夜会で会った時よりも―――――随分痩せて、顔色も良くない。医者でなくてもわかる。
これは―――――もう、死期が近いんだろう。
病室に入って一番に駆け寄ったのは、ナナだった。俺もそっとナナに寄りそう。
「――――お父様……。」
ナナがその手を握ると、静かに彼女の父は目を開いた。
「――――ナナか……よく、戻ったな。」
「みんないるよ。ロイも。ハルも。……お母様も。」
ナナの言葉に促されるようにして、3人がベッドに近づく。それを視界に捉えて、安堵したような、後悔を募らせるような、苦々しく切ない表情を見せた。
「私は―――――お前たちを苦しめた、だけだったな。」
消え入るような枯れた声。
ナナの目が、ロイ君の目が昏く陰った。
――――そんなことはないと言えないほどには、この姉弟は苦しんで来たんだろう。
「――――あなただけがこの子達を苦しめたんじゃないわ。私も、同罪。」
透き通る温かい声の主を見つめる彼の目を見れば、まだ深く愛しているんだと、伝えきれていない、すれ違ったままのなにかがあるんだろうとわかる。
「――――クロエ……。」
「間違ったのね、あなたも私も。」
「――――………。」
「ただ人を救いたくて………同じ志を持って私たちは医者になったのに―――――、どこでその道は分かれてしまったのかしら。もう思い出したところで―――――、遅いけれど。」
「――――………。」
重々しい空気が流れる。
その空気を一閃したのは、ナナだった。
「遅くない……!手遅れになんか、させない。こうやって小さく何度も諦め続けたから、きっと私たちはこんな風になってしまったの…………!」
泣きたいんだろう、でもそれを必死にこらえて、何かを変えようと言葉を繋げるナナはとても不安定で、でも強くて―――――その強い想いを秘めた瞳がなにより誇らしく美しいと、俺は思った。