第71章 帰郷
「――――お話中失礼します、お嬢様、ちょっとよろしいですか?」
「あ、うん!……エルヴィン、少し待っててね。」
「ああ。」
ハルに呼ばれて、客間を出た。扉を閉めた途端、ハルが喜々とした表情で顔を近づけて来る。
「ど、どうしたの……?」
「お嬢様、彼は――――エルヴィン団長は、ただの上官ではなく恋人なのですね?」
「………うん。」
「以前いらしたリヴァイ兵士長ももちろん素敵でしたが、私は圧倒的にエルヴィン団長を推しますわ!」
「いや、推すとかじゃなくて……。」
どうしよう、なんだかハルの変な興奮スイッチが入ってしまっている。
「エルヴィン団長と言えば、調査兵団の歴代団長の中でも相当な評判じゃないですか!それにあの金髪碧眼の整ったお顔立ち……高身長で言うことなしです。お嬢様の夢である外の世界にも、もっとも近い方で……さすが。さすがです!こんな素敵な殿方を伴侶としてお選びになって、お嬢様を調査兵団に送り出した甲斐がありました……!」
「伴侶……か……。やっぱりお父様もそういう風に思うのかな……?」
私の零した一言に、ハルは目を丸くした。
「それはそうでしょう。相手の病床の父を見舞うなんて、将来を約束していないとしませんもの。旦那様もきっと……安心されるでしょう。ですが――――……違うの、ですか……?」
「ううん。一緒に生きることを決めた人に、違いないの。」
私がただ一つ懸念したのが――――、これから波乱が予想される家のことに、エルヴィンを巻き込みたくないということだ。
お父様はエルヴィンの有能さも含めて見知っている。
だから――――変に、この家のこれからをどうにかしてくれなんて頼まないだろうか、それが心配だった。
「―――あと、お部屋は別で良かったのですか?」
ハルの問に、急激に顔が真っ赤になった。
「い、いいの!!もちろん……!」
「そうですか。初心ですねぇ。」
ハルがニヤニヤしながら私の頭を撫でた。くすぐったくて、心地いい。