第71章 帰郷
道中、時折視線は感じたものの―――――、何かを仕掛けてくることはなく、その日の夕方に家に着いた。馬を預けていると、門のところまでハルがやってきた。
「お嬢様、よくお帰りで――――、あら、そちらの……方は……。」
「ああハル、ただいま。紹介するね、わざわざお父様を見舞って下さって……調査兵団のエルヴィン・スミス団長。」
「―――初めましてハルさん。ナナさんからお話はよく伺っています。エルヴィン・スミスです。どうぞ宜しく。」
「ハルと申します、こちらこそ……。調査兵団の団長でいらっしゃるなら、さぞお忙しいでしょう……遠方遥々、ようこそおいでくださいました。」
ハルは深く頭を下げた。
「それでね、急で申し訳ないんだけどエルヴィン団長のお部屋を用意して欲しいの。今日と明日、泊まっていただきたくて。」
「かしこまりました。すぐに。」
「申し訳ない、感謝します。」
「あと、明日お父様に面会はできるかな…?」
「はい、ロイ様にそのように伝えてあります。」
「ありがとう。」
「さあ冷えるので入りましょう。ロイ様も今日は少し遅くなりそうと仰っていましたので、先に夕食に致しましょうね。」
「うん。」
一日の移動で冷えた身体に、温かいスープが有り難い。
夕食を済ませ、エルヴィン団長の部屋を整えてもらっている間、客間のソファでお茶をすすりながら他愛もない話をする。
「――――いや、想像はしていたが想像以上にお嬢様だったんだな、ナナ。」
エルヴィン団長がふふ、と笑う。
「そうかな?」
「ああ、正直あの手紙のこともあったし、君だけを置いて帰るのが心配だったんだが――――、これほど手厚く警備されていれば少し安心だ。それでも、ハルさんに伝えて誰かに必ず付き添わせるようにしたほうがいい。」
「うん……。」
「嫌な視線も感じたしな。」
「……やっぱりエルヴィンも感じたんだ……。」
あの視線は気のせいじゃなかったんだ。少し、怖い……。