第71章 帰郷
「――――あなたにそれを聞かれるのが、一番、困ります。」
「どういう意味だ。」
「言えません。言ったら、後悔する。」
ふ、と自嘲気味に笑って見せると、私をチラッと見て呆れたようなため息をついた。
「――――……変なところで頑固だなお前は。」
「ふふ………。そうだリヴァイ兵士長。紅茶はまだありますか?」
「あ?」
「王都に戻るので、買ってきますよ。お詫びも兼ねて。何がいいですか?」
「――――悪くない心がけだ。去年の誕生日にお前が贈ってくれたのと同じものがいい。あと―――――後で金は返すから、お前の一番好きな紅茶を2缶買って来い。」
「はい。2つ、ですか?」
「ああ。」
「わかりました。」
「――――気を付けて行けよ。まぁ……エルヴィンがいるなら心配ねぇが。」
「はい。」
「変質者に出くわしたら、エルヴィンを盾にしてでも逃げろ。」
その教えに、思わず笑ってしまう。
「団長を盾になんて、できませんよ。盾になるとしたら、私のほうです。調査兵団にとって―――――人類にとって、私の代わりなんていくらでもいても、あの人の代わりは――――いない。」
「―――例えそうでもだ。俺にとってお前の代わりはいない。」
「…………。」
目も合わさず、口説いてるわけでもなく、ただただ当たり前のようにあなたは言う。
それが、私を乱すんだと―――――、言えるはずもないけれど。また込み上げる小さな笑みを零す。
「リヴァイ兵士長、ただのリヴァイさんの声が漏れてます。」
「今日は休みだ。兵服も着てねぇしな。いいだろ。」
こうやって続いていくのだろうか。
あなたは細く柔らかでしなやかな鎖で私を繋いだまま、兵士長の仮面をかぶり続ける。
私が望んだ役割を全うしようとしながら、時折“リヴァイさん”の素顔をのぞかせるのは、謀ってか、謀らずか。
そんな掴めないところも、やっぱり大好きだ。
「――――では、行ってきます。」
「ああ。無傷で戻れよ。命令だ。」
「はい。」
その後、私とエルヴィン団長は兵舎を発った。