第71章 帰郷
31日の朝。
出立前に、どうしても私は行かなければならない。
ちゃんと、話さないといけない。
朝早くに、苦しい胸を押さえてその扉を叩いた。
「――――誰だ?」
「――――……お休みの日に、朝からすみません。ナナです。」
「…………。」
返事が、なかった。
「入れてくれとは言いません、ここで、このままでもいいから……昨日の事を、ちゃんと――――謝りたいんです。」
「………そこで話すくらいなら入れ。」
「―――……はい、失礼します。」
扉を開けて中に入ると、起きたばかりだったのか、皺のついたシャツを着たリヴァイ兵士長がソファに座っていた。
「これから実家に戻ります。」
「――――ああ。」
「心配してくれて、ありがとうございます。私……昨日取り乱して、しまって……。弟とのことを、ちゃんと……何が、大丈夫で、何が、心配いらないのか……話せなかったので……。」
「――――………。」
「リヴァイ兵士長が嫌でなければ、全て話します。聞いて、下さいますか。」
「――――………端的に話せ。全て聞きたいわけじゃない。」
「わかりました。」
私はリヴァイ兵士長が知っているとおり、ロイと関係を持ってしまっていたこと、でも和解してもう心配する必要もないことを伝えた。
「――――そうか、大丈夫ならいい。」
「はい……取り乱して酷い事を言いました。申し訳ありません。」
「――――なぜ、泣いた?」
「…………。」
「弟とのことに問題があって、それを隠してでも帰省しなけりゃならないというわけじゃないなら、なぜ泣いた。お前を苦しめているのはなんだ。」
その問に、私はなんて答えれば良かったのか。
まさかあなたへの未練が再燃してしまうのが怖くて、あなたが愛おしすぎて、その腕の中が心地よくて、それが苦しいなんて、言えるわけがない。