第70章 香
「う゛わ――――――もうなんでこんな前の経費が今更出て来るわけ?!」
「知らねぇよ、てめぇの分隊のことだろうが。管理してなかったてめぇが悪い。クソメガネ。」
「分隊長、これからは経費関連は自分がやるので……。」
「ありがとうモブリット!!君は神か何かなのかな?!いやぁ本当にいい子が来てくれて良かったよ……。」
「おいモブリット、クソメガネを甘やかし過ぎるなよ。こいつその内巨人の解剖以外の仕事しなくなるぞ。」
「き、気をつけます…!」
なにやら鬼気迫る様子の中にほんの少しの微笑ましいやりとりを含んで、期末の処理業務は朝から団長室に幹部の皆さんとモブリットさんが缶詰になって、絶賛実施中だ。
去年もこんな風に過ごしていたっけ。モブリットさんもいなかったから、もっと大変だった記憶がある。
昼食をとる暇もなさそうなので、私が厨房を借りて簡単につまめるサンドイッチを作って差し入れる。みんな片手で書類を書きながら、片手で食事をとる。
皆さんがそれぞれの場所で集中して資料と向き合っているところに、そっと昼食と飲み物を置いて回る。
リヴァイ兵士長の横から、邪魔しないようにそっと手を伸ばして昼食を置いた。
リヴァイ兵士長は書類から目を離さないまま、口を開いた。
「おいエルヴィンこれなんだが―――――。」
「えっ?」
「あ?」
私の発した声にリヴァイ兵士長はぱっと私の方を見上げて、一瞬困惑したような顔をした。
「すみません、私です。」
「―――――いや………悪い………。」
妙な間の後、リヴァイ兵士長は不機嫌そうにフイッと顔を背けてまた資料に目を落とした。
「………?」