第70章 香
「………好きだよ、ナナ。」
その合間に低く囁くと、ナナも吐息交じりに応じてくれた。
「………私も……好き……。」
それを合図に、堰を切ったように激しく舌を割り入れてナナと繋がる。
「――――ふ、……はぁ……っ……。」
「ナナ……ナナ………、――――……ナナ……っ………。」
自分のものであることを刻み付けるように何度も何度もその名前を呼んだ。――――初めて女性を抱いた時ですら、ここまでの興奮はしなかったかもしれない。
そうだ確かにナナが言った通り―――――コーヒーもワインも……愛も欲も―――――単純明快なものより、複雑なもののほうが魅力的だ。
だから惹かれるのか。
――――だとしたら、感謝すらしなくてはならない。彼女を複雑に染め上げるための土台を作ってくれたあいつに。
「―――このまま――――君を抱きたい。」
「……うん……。」
―――――リヴァイになにも言えたものじゃない。
俺も同じだ。
抗えずに欲に流されて――――明日の朝、ぐったりとその身を削られたようなナナを見て、後悔と自己嫌悪の渦に身を投じることになるんだろう。
けれど今夜は、初恋が叶った初心な男の愚行だと思って―――――どうか、赦して欲しい。
自分でも驚くほど小狡い事を考えながら、ナナを自室に囲って鍵をかけた。