第70章 香
「――――それと、ナナにまつわる物騒な手紙の続きが来た話をしておきたい。」
エルヴィン団長がぱさ、と手紙と私の血がついた封筒を置いた。広げられた手紙にただ一言書いてある文字を読んで、ハンジさんが顔をしかめた。
「『痛かった?』なにそれ……どういうこと?気持ち悪い……。」
「――――おい待てナナ、お前その指どうした。」
リヴァイ兵士長が私の指先に目をやった。ミケさんが、封筒を手にとって調べた。
「開封時に切れるようにしてある。剃刀の刃だ………。」
「――――クソが、気持ち悪ぃことしてくれるじゃねぇか……。」
「ナナ、大丈夫だった?」
ハンジさんが眉を下げて私の手をとる。またいらない心配をかけてしまうことに、申し訳なくなる。
「はい、少し切っただけです。」
「そうか、良かった。」
「―――ナナに執着しているだけでなく加虐嗜好がある異常者だ。こういう輩は想像だけでは満足しない。恐らく近いうちに危害を加えようと姿を現すだろう。――――考えたくはないが、調査兵団の中に………思い当たるような不審な人物はいるか?」
考えたくもない問に、幹部の皆さんも目線を落とした。やがてハンジさんとミケさんがそれぞれ口を開いた。
「――――いや、私は心当たりはないな。」
「俺もだ。もし内部にいるのなら、翼の日の準備段階や当日でも、それを口実にナナに近づく隙はあっただろうと思うと――――内部とは考えにくいんじゃないか。」
「―――――リヴァイはどうだ?」
「…………俺も、ねぇな。翼の日の企画が始まってから、良い空気だ。なにかを企てたり、誰かを傷付けようとしている奴は浮く。空気でわかるが―――――俺の見る限り、そんな奴はいない。」
「そうか。ではナナを兵団の外に出す時には特に厳重に警戒することと、外部から兵団内に入っている人物には必ず誰かを監視として付け、単独行動をさせない方法でいこう。」
皆さんが同意して頷いた様子を見て、私は思わず頭を下げた。また私は迷惑をかけてしまっている。そのことが苦しかった。