第70章 香
それでなくても忙しいこの年末、そして未だ不穏な空気を拭いきれない中央憲兵のこともあるのに、また心配の種を作ってしまうことがいたたまれない。
なぜなら、すでに一つ確実に迷惑をかけてしまうことを―――――エルヴィン団長に相談しようと思っていたからだ。
「エルヴィン団長。」
「ん?」
「弟から―――――ロイから手紙が来て………やはり父が良くなく、一度―――――実家に帰らせて頂けないでしょうか……。」
俯き加減で小さく口にすると、エルヴィン団長はぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「当たり前だ。言っただろう?気にする必要はないと。いつから戻る?どれくらいの予定でいるんだ?」
「……取り急ぎ年末のお休みに入ったらすぐに帰省して――――――、可能であれば5日間ほど……それで様子を見て、最悪の場合―――――家業を安定して運営できる軌道に乗るまで、手を離せないかも、しれません………。」
「そうか……わかった。前回のように業務整理を出来る範囲でして、引き継いでくれ。急ぎ5日間の外出は認める。その先のことは―――――その時に考えよう。」
「はい。ありがとうございます。」
「そのことも含めて、幹部会で共有しよう。」
エルヴィン団長は大丈夫だと言うように、優しく背中をさすってくれた。