第69章 葛藤
日が落ちて、翼の日は大盛況のうちに幕を閉じた。
片付けをおおよそ終える頃にはすっかり冷え切って、その日の食堂ではエルヴィン団長がみんなを労って振る舞ってくれたお酒や、商家の出店で残った美味しい食べ物を並べてさながら宴会のように盛り上がった。
みんなが笑顔だ。それが、とても嬉しい。
まもなく日も変わりそうな時間になってもまだその盛り上がりは続いていて、私はそっと食堂を抜け出した。
屋上に上がろうと一人廊下を進むと、急に腕を引かれて死角に引き込まれた。
「――――っ!」
大きな身体に抱すくめられている。――――こんな大胆に悪戯をしかけてくるのは……、そして匂いでも分かる。
毎日感じているこの雄々しくて優しい香りは。
「――――エルヴィン団長。」
「どこに行く?」
「――――風に当たりに。」
「そうか。すぐ戻るか?」
「なぜですか?」
「――――想像以上に大盛況で、資金提供の繋がりもかなり作れた。君のおかげだ。ずっと頑張ってきた君を、とことん甘やかしたい。」
そう言って背中から強く私を抱き締めてくれる。
「――――ありがとうございます。でも今夜は―――――1人でいたい、気分なんです。」
「――――……それは……。」
なにか言いかけて、エルヴィン団長は口を噤んだ。
「そうか、わかった。」
「……ごめんなさい。」
振り返ってその頬に小さくキスをすると、エルヴィン団長は切なげに微笑んだ。
「また明日、いつもの執務の時間に伺います。」
「―――――ああ。」
そう言って、エルヴィン団長の腕をすり抜ける。
私が腕を抜けると、エルヴィン団長はふっと息を吐いて、壁にその背を預けた。