第68章 商会
「――――いい考えじゃねぇか。だがな……いまだに避難民を受け入れているこのトロスト区には、絶対的に食い物も何もかもが足りてねぇ。そこら中のガキが、腹を減らしてる。」
リーブスさんの目が、鋭く私を睨み付けた。
「お前ら調査兵団が、ぱぱっとウォール・マリアを塞いで取り返してくりゃ済む話なのにな?催し物をやってる暇があるなら、壁を取り戻す手段を講じるのが先じゃねぇのか?」
「―――――………。」
街の荒れ具合を憂いているのか。思ったより真っ当な人物だと思った。
部屋の中の必要以上に豪華な調度品などから見るに、私利私欲がないわけではなさそうだが、自分が街の経済の一端を担っている自負があるんだ。街の人々のことを守る気持ちがある。
「なあお嬢ちゃんよ。団長連れて来いよ。壁を取り戻すのが先だって俺が言ってやろう。」
「それはできません。団長に任されて私がここにいます。」
「あぁ?」
私が食ってかかっても、ミケさんは終始腕を組んだまま黙っていた。私を信じて任せてくれている。
私が――――――しっかりやってみせる。
「リーブスさんの仰る通りです。壁を取り戻せば全てが上手く行く。」
「あ?なら早く―――――。」
「一度の日帰りの壁外調査に約10万鋼貨。」
「………?」
「壁を塞ぐ物資が20万鋼貨。到底一日で作業はできず、3日間として30万。そして兵士は壁を塞ぐために何人も死ぬでしょう。おそらく―――――200人で出立して、死者は50名を超える。」
リーブスさんを真っ向から見据えて告げる。
「あなたならお分かりでしょう。ウォール・マリアを奪われ、ほとんどの畜産業・農業の機能を失ったこの国で――――――その費用を捻出することがいかに難しいか。捻出するために税金をあげれば、今この街で空腹状態で済んでいる人々がどうなるか。」
「――――………。」