第68章 商会
トロスト区に着いて、メモを頼りに向かった先は立派な建物だった。扉をノックすると出迎えてくれたのは、いかにもお金を持っていて甘やかされているんだろうと思わせる、肉付きの良いお坊ちゃんだった。
「初めまして、調査兵団のナナと申します。」
「!!あ、どうも……っ…、どうぞ、親父……待ってるんで……!」
「ありがとうございます。」
礼をして歩を進めると、チラチラとその坊ちゃんと目が合う。歳の頃は私と同じくらいだろうか。頬を染めている………気に入られては、いるらしい………。
奥の部屋の扉を開かれて迎え入れられた先には、ゴテゴテと装飾のついた派手なテーブルに金糸の刺繍が施されたクッションが乗ったソファ。
そこには、恰幅の良い、鋭い目つきの中年男性が座っていて私たちをジロリと睨みあげた。
「親父、来たぜ。調査兵団の―――――。」
「団長補佐のナナです。こちらは分隊長のミケ。お会いできて光栄です。リーブスさん。」
「は、御大層な挨拶はいらねぇよ。まぁ座りな。」
言われるがまま促されたソファに座る。ミケさんも、隣に座ってくれた。座るやいなや、リーブスさんは口を開いた。
「―――――聞いたぞ?なにやら珍妙なことを始めるんだって?」
そう言って葉巻に火を点けた。
「はい。市民の方々に調査兵団のことをもっと知っていただくために、訓練場を解放して―――――小さいですが、催し物を。」
「ほう。このしみったれた時世だ。ガキ共が喜びそうで何よりだ。」
「リーブスさんにお願いがあって参りました。その催しでは、屋台や出店を出して市民の皆さんに楽しんで頂きたいんです。そこで―――――何かツテをお持ちであれば、ご紹介頂けないかと。」
「――――例えばどんな?」
「そうですね、手軽に少額で食べられるものや飲み物、お菓子や―――――物品の販売店もいくつかあっても良いかと思っています。」