第7章 調査兵団
「医学なんて学べるような裕福な家庭で育って、ぬくぬくと勉強して、医者になって……。夢の為に調査兵団に入る?………ふざけんな。こっちは毎日毎日死ぬかもしれない状況で身体張ってんだよ!夢なんてお気楽な思考で来られたら、迷惑だ!」
彼女が投げた分厚い本が、こめかみに当たった。
「!!ちょっとリンファさん!!!」
アルルさんが慌てて駆け寄ってくれる。
「血が……!」
こめかみから、ほんの少し血が滲んでいた。アルルさんはそっとハンカチで押さえてくれた。
「リンファさん、……知ってますか。」
「なによ。」
「口からも目からも血を吹き出し、生きた屍のような姿で自我を保てずうめく患者さんもいるんです。もし未知の病だったら、明日、同じようになるのは自分かもしれない。もしかしたら、もしかしたらって考えながら、知識の及ぶ限りの治療を尽くすんです。治療法が間違っていたら……?投薬一つ、処置ひとつで患者さんを殺してしまうこともあるんです。毎回毎回、怖いです。ぬくぬくと医療に携わってきたことは一度もない。医者も、戦っているんですよ。」
「………!」
「あなたのおっしゃる通り、私は巨人のうなじを削げません。だけど、その代わりに医術という武器を磨いてここにいることを許されているんです。私を信じて下さったエルヴィン団長の判断を卑下するような発言は、やめてください。」
「………ナナ。すごい度胸あるね………!」
アルルさんがぽかんとした顔で、私を見る。リンファさんは悔しそうに歯を食いしばって、私を睨んでいた。