第68章 商会
「一つ目は―――――、先週か。中央憲兵の兵舎に、40過ぎぐらいの黒髪の女が半狂乱で門番に訴えてたよ。しきりに『夫をどこにやった』『返せ』『アーチ』…だったか……誰かの名前を叫んでいたな。」
「……………!」
「何度も門番が嗜めようとしたが――――、女が『証拠をでっちあげた』みてぇな内容の事を言った途端、背の高い中年の男が兵舎から出て来て、女に笑顔で話をしながら落ち着かせて――――、兵舎の中に連れてったよ。」
「―――――そいつ、死んだな。」
「だろうな。」
―――――アーチが本格的に中央憲兵に染まりつつあるということか。クソが、サッシュがどんな顔をするか………聞かせられねぇような話だ。
いずれ殺り合うことになるかもな―――――。
「もう一つは――――これは少し前からになるが、時々浮くんだよ。王都から少し離れたウォール・シーナの区域の川に。元中央憲兵と思われる人間の死体が。」
「―――――………。」
「さっきの黒髪の女の言うことが正しけりゃ―――――、相当な組織だぞ、中央憲兵とやらはな。なにかの秘密でも握ってんのか、聞かされちまうのか―――――、抜けようとしたところで次の日には判別できない状態で川に浮くことになる。」
「―――――………。」
想像はしていたが、なかなかだ。だが俺はそこまで動揺もしなかった。そんな程度のこと、朝飯前に表情も変えずにやってのけるような人間と――――――俺は生活をしていたからな。
そいつの顔が最近、頭をチラつく。生きているのか、死んだのか。生きているとしたら――――――。
「あとは、おまけだ!出店や屋台をこの地域で誘致する気なら、一番最初にトロスト区のリーブス商会には話を通しておけよ。敵に回すと後々厄介だぞ、あの一家は。」
「リーブス………。」
「ああ、偉そうで嫌なおっさんだがな。手腕は確かで、街の商家への繋がりは強固だ。」
「………そうか、頭に止めておこう。」