第67章 下準備 ※
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ナナはひたすら楽しそうに、その構想を書きあげていく。その横顔はきらきらと輝いて、魅入ってしまうほどだ。
誰もが損をせず、傷つかず、誰しもに益になるように作戦を組み上げる。そんなことを俺は考えたこともない。所詮甘い戯言だ、全てがそんなに上手く運ぶわけじゃない。時には非情に、冷徹とも言われる判断も必要だ。
だが―――――俺は俺の感覚と価値観にナナが染まればいいと思っていたが―――――違うのかもしれない。
染まらず、くすまず、彼女の真っすぐで純真な人を想う気持ちはそのままでいてくれることが、結局俺達――――調査兵団が選べる道を増やすことに繋がるのかもしれないと、そう思った。
「――――??エルヴィン?」
そんなことを考えながら横顔を見つめていると、視線に気付いたのかナナが俺の方を振り返った。
「どうしたの?あ、重い…?ごめんなさい、ちゃんと私机で……。」
ナナが俺の膝から立ち上がろうとするのを阻止するように強く抱き留める。
「――――わっ………。」
「ナナ、とてもいい案だし―――――それを考えている君はとても素敵だ。が、それは仕事だ。執務時間内にやりなさい。」
「え、やだ。今やりたい。楽しいの!ねぇ、子供仕様の兵服とか作れたら――――――。」
「駄目だ、今日はもう終わりだ。」
「やだってば、覚えている間に書いておかなきゃせっかく――――――。」
身体を抱き留めてもまだ机に向かって、ペンを走らせようとする。まったく。とんだお転婆だな、一度言い出したら聞かないところも本当に幼い。
「―――――ナナ、俺の言うことを聞かなかったばっかりに後悔する羽目になったことを、もう忘れたのか?」
「――――ひぅ…っ……!」
ナナが弱い耳を食んで、その耳を犯すかのように囁くと、可愛い鳴き声を発してナナの身体が震えた。
耳に血液が集まり真っ赤に染まっていく。