第67章 下準備 ※
―――――――――――――――――――
約束通りエルヴィン団長の仕事が終わるのを見届けた。もう日が変わっている。毎日毎日こんなに働きづめで、身体を壊してしまうんじゃないかと心配になる。
「――――エルヴィン団長に、休暇はないんですか……?」
「ん?」
「ずっと多忙で―――――……いつ、気を休めるんだろうって……身体も……心配です。」
「ああ……休暇らしい休暇は年末年始の数日だけかな。身体はもう――――慣れた。気を休めるのは――――今からだな。――――だが、資金繰りのことは早急になんとかしないと……年が明けてからの壁外調査の資金はまだなんとかなるが、来年の活動が厳しくなる。」
エルヴィン団長はループタイを外してシャツのボタンを2つはずして、ふーっと息を吐いた。髪をかきあげる姿が私の目には艶やかに映る。
見惚れていると、私の視線に気付いたのか、執務の椅子に座ったままおいで、と手を広げてくれる。私は吸い寄せられるようにその腕の中に収まった。
「――――落ち着くな、君の柔らかで清らかで……時折色香を含むこの香りが。」
エルヴィンは私の首筋から耳の後ろに顔を埋めて呟く。息が耳にかかってくすぐったい。
椅子に座るエルヴィンの正面に立っていたのだけど、簡単に抱えられてまるで子供が大人の膝の上に横抱きにされるような形で落ち着いた。
「――――……。」
私は黙って、エルヴィンの首に両腕を回してギュッと抱きついた。
「??どうしたんだナナ。珍しい。甘えているのか?」
エルヴィンはふっと笑って私の頭を撫でる。まるで子供をあやすように。
力になりたい。なにか私にできることがないだろうか、そんなことを考えていた。
「――――私も役に立ちたい……。」