第67章 下準備 ※
「消毒だけでいいか?」
「はい。ありがとうございます。」
「――――それとも、舐めておけば治るのかな?」
「えっ………。」
ニヤリと笑ってナナの体を引き寄せ、その頬に口付ける。柔らかな肌についた擦り傷を癒そうとする動物のように、舌を這わせた。
「や、あのっ……傷口は汚いので……!駄目ですってば………!」
「君が言ったんじゃないか。舐めておけば治るって。」
「――――冗談です……っ!―――――…あ……っ……。」
いつもナナの抵抗はか弱くて、私を煽る。
「――――可愛い声を出すなよ。食べてしまいたくなる。」
「……っ何か、はぐらかしてるでしょう?!」
途端にナナがキッと私を睨み付けた。
図星だ。とことん彼女に嘘はつけない。
あぁしまった………、しかも消毒液もさっき封書を隠した引き出しの中に入っているんだった。
「――――本当に君には嘘がつけない。」
ははっと、笑って引き出しを開け、消毒液を取り出す。ハンカチを畳みなおし、清潔な面に消毒液を染み込ませて頬に当てる。
ほんの少し染みたのか、ナナは一瞬小さく目を閉じた。
「………残りの執務を全部投げ捨てて、このまま君を食べてしまいた―――――。」
「駄目です。仕事してください、団長。そして隠していたことを話してください。」
「厳しいな君は。」
ナナを抱き締めて、拗ねているとアピールするように首筋に顔を埋めてため息を零す。
「――――お仕事が終わるまで、いますから。」
「――――むしろ終わってからの時間に側にいて欲しい。」
我儘を言うと、ナナは仕方ないな、とでも言いたげに眉を下げて俺を胸に抱き締めた。
「いいですよ。あなたの望むままに。」
――――あなた、という言葉が嬉しい。
まるで生涯の伴侶のようじゃないか。
少し満足して、引き出しの中からたくさんの封書を取り出した。
「さっき隠したのは――――これですか?」
「ああ。君へのファンレターや、食事への誘いだ。」
「え?」
ナナは目を丸くした。