第66章 垂訓
何を言いだすのかと思った。
21にもなって、初めてのキスに執着するとかどんだけ恋愛に夢見てるんだか、とおかしくなって顔が綻ぶ。
するとサッシュはあたしを抱き上げ、ベッドに下ろした。―――――……どうせ明日も早いから、寝ろとか言うんだろう………と冷めた目でサッシュを見上げる。
けれど、なにやら様子がいつもと違う。ひどく息を荒げて、あたしの両手首をぎり、と力を込めて押さえつけた。
「……なに……サッシュ、どうし………。」
「――――俺にもくれよ、お前の初めて。」
「―――――は?」
「…………抱きたい。」
その目は見たこともない、男の目だ。
意味を理解したと同時に、心臓がいまだかつてないくらいに激しく音を立てて体中に血液を送り込む。
「……なに……っ………だから、知ってんでしょ、あたし―――――もう、初めてじゃな……。」
「――――愛し合う意味での初めてを、俺にくれって言ってる。」
「―――――………。」
「……あ、間違った。」
「は?」
とてもいい雰囲気のところですっとぼけたような顔で『間違った』と言ったか今?なんだよ本当に馬鹿じゃねぇの、そう思ったんだけど。サッシュはまっすぐにあたしに届くように、言った。
「――――初めても、これからも、最後まで―――――全部くれよ、俺に。」
「―――――………。」
耳を疑った。どれだけ強欲だよ。
あたしがとんでもなく面倒な女だったらどうすんだよ。
そんな将来まで誓うようなこと言って………本当に馬鹿、馬鹿すぎる…………そんなあんたが―――――あたしを、いつも救ってくれる。
「―――――昔からずっと――――――それだけを夢見てた。」
サッシュのお嫁さんになるんだって、無垢な少女の頃から夢見てその背中を追ってきた。その夢は11歳のあの夏に踏みにじられたと思ってたのに、こんなあたしの夢を、叶えてくれるの?
あたしがまた子供みたいに泣くと、サッシュは少し笑ってまたキスをしてくれた。
「――――ずっと一緒だ、リンファ。死ぬまで側で笑ってろ。俺たちが踏みにじるアーチの恋心に報いるためにもな。」
「―――――うん………。」
あたしはこの日、世界一幸せな女の子になった。