第66章 垂訓
「――――ちくしょう、可愛い……。ナナよりも、誰よりも、こんな生意気なお前が可愛いなんて俺はどうかしちまったんだ………!」
「――――…他の女の名前を出すところが……デリカシーなさすぎ……。」
また悪態をついて、ふっと笑う。
「――――そんなところが、馬鹿正直なところが、好きだよ。」
至近距離で目を見つめると、驚くほど似ている。アーチと。
でもあたしが欲しいのは、昔からずっと―――――サッシュだけなんだ。ごめんね、アーチ。と心の中で贖罪の言葉を告げる。
数秒見つめ合ったあと、サッシュの切れ長の目が閉じられ、唇が触れた。
「―――――好きだ、リンファ。」
唇が離れてすぐ、ずっとずっと求め続けた言葉が耳から心臓へ、脳へ、身体全てに染み込むように流れ込んでくる。心の奥底から湧き上がるその言葉を、自然と口にした。
「―――――あたしも、好き。」
目を見つめると、また自然と唇が重なる。
「―――――あたしたち、アーチに酷い事、してる………。」
「………知るかよ、早いもん勝ちだ。」
言葉の合間に、小さく唇を啄む。
「――――……なら、アーチの勝ちになっちゃう。」
「は?」
「――――さっきされた。」
「はぁ?!」
サッシュはとてもショックを受けた顔をして、あたしの両肩を掴んで身体を離した。
そしてあまり出来の良くない頭でなにやら深く考え込んで、ぼそっと呟いた。
「…………初めてだったんだろ。」
「え?」
「………キス。」
「えっ、あ………まぁ……そう、かも………。」