第65章 脆弱
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強く掴んだその腕は細くて柔らかくて――――――見上げるばかりだったリンファの黒髪と黒い瞳が同じ高さにある。頭の中はぐちゃぐちゃで、なんの歯止めも効かず今まで抱いていた心の内をリンファに吐き出した。
絶対に言うべきじゃなかったんだ。
だけど、初めて―――――初めて俺に会いにリンファが来た。知らない街で、こんな夜遅くに一人で。そして今俺だけを見ている。ただ分かって欲しかったのかもしれない。どれだけ俺がリンファを想っているのか。
でもそれはすぐに後悔に変わった。
『ごめんね』そう小さく聞こえたあと、リンファの胸に寄りかかった俺のこめかみあたりに、ぽた、と滴が垂れる。それは一度ではなく、次から次へと。
顔をゆっくり上げると、街灯の仄かな灯りを小さく映す滴がリンファの黒い瞳を濡らしていた。
「――――――泣かせる、つもりじゃ……なかったんだ………。」
震えを抑えながらその涙を指で掬う。
なにが、つもりじゃなかっただ。本当にそうか?
俺は―――――俺の苦しみをぶちまけることで、彼女を罪悪感によって縛れるんじゃないかと、思った。
初めて触れたリンファの頬はさらりとしているのに温かくて、俺は興奮していた。
自分が最も嫌悪していたその欲が俺の中でじわじわと気持ち悪く蠢いて広がっていく。