第65章 脆弱
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―――――あたしの知らない間にアーチは随分逞しく成長していた。姉のような気分で、その成長が嬉しかった。
だけど――――、絶対に今のままじゃ良くない。サッシュといると喧嘩になってしまうし、あたしが何か―――――アーチの心に訴えることが、できないだろうか。
その日の夜。
サッシュはやけ酒のようにビールを流し込み、あたしの部屋のベッドでそのまま眠ってしまった。そっと布団をかけて、その髪を撫でて―――――その愛しい横顔にキスをした。起きていたら茶化されて絶対にできないから。
「――――ちょっとだけ、行って来るね。」
そう言い残して、あたしは宿を出た。
王都の夜道は明るい。
街灯が立ち並び、まったく出歩くことを躊躇させないほどだ。
そして―――――中央憲兵の兵舎の前まで、やって来た。
けれど、どうしよう。別に約束してるわけでもないし……明らかにあたしは不審者だよな……とうろうろしていると、急に腕を強く引かれて、気が付けば街路樹を背に男の腕に囲われていた。
「………こんな時間にこんなところで……っ、何してんだ……っ……!」
「―――――アーチ………?」
街灯を背にして逆光で良く顔は見えなかったけれど、その声に間違いはない。目が慣れて、その表情が確認できる。
眉を強く顰めて、怒りか焦りか―――――不安をそのまま張り付けたような、あたしの知らないアーチの顔だ。
「………ごめん。どうしても、話したくて………。」
「………あんたは昔から――――――……っ……危なっかしすぎるんだ………!」
アーチの言葉にふっと笑いが込み上げた。
「昔って………あんた相当子供だったじゃない。」
「――――………。」
「あんなくりくりで可愛い目をしていたチビが、あたしのこと“危なっかしい奴だ”って思ってたの?」
子犬のように付いて回っていたアーチがそんなことを考えていたなんて、とても想像できなくて思わず笑ってしまった。