第65章 脆弱
所属兵団を決める時、リンファを守るには調査兵団に行くべきかと悩んだ。けれど、リンファを追って側で過ごして、またあの悪夢を見ることになったら――――――俺はきっと耐えられない。遠く離れた場所から、彼女の命を守ることができれば側にいなくたって、いい。
『―――――アーチ。君のその素晴らしい力を、王のために役立てる気はないか?』
そう声をかけてくれたのが、サネスさんだった。
サネスさんは優しくて―――――俺の懺悔と苦しみを聞いて、受け止めてくれた。
そして王への崇拝と絶対的な献身は凄まじかった。自分というものを捨てて、王を守る使命に燃えるサネスさんが、かっこよく見えた。俺も自分の感情を捨てて―――離れた場所から、リンファを守る。それが最善だと、信じて疑わなかった。
こうして俺は―――――中央憲兵に所属することに決めた。
懐かしいことを思い返しながら、兵舎に戻る道を行く。
「――――なぁアーチ。」
後ろからかけられるその声を、怖いと思った。
「――――――あの娘の美しい黒髪を守るのが、お前の役目なんだろう?」
「…………!」
「おかしなことを考えないことだ。お前を傷付けたくはないし――――――、あの娘の珍しい見事な黒髪も、ズタズタに切り刻むのは―――――気が引ける。」
「―――――おかしなことなんて、考えてません……!」
俺は絞り出すようにそう告げて、足早に兵舎へ戻った。
―――――くそ、認めるよ。
俺はあの時判断を間違った。
だがもう虫よくここから逃げられるなんて思っちゃいない。俺は俺のやり方で、兄貴を――――――リンファを守ってみせる。