第65章 脆弱
「――――俺とリンファがなんでもするって言ってんのはな、俺達が調査兵団を辞めるとかそんなことじゃねぇ。お前がそこにいるのが怖いなら、違うって思ってるなら―――――助けてって言えよ。俺達がいるだろ。」
俺の言葉に、アーチが目を見開いて俺を見上げた。
「兄貴…………俺………。」
「―――――やぁアーチ。彼がお兄さんか?」
アーチの背後からかけられた柔らかい声色の男の声。
その柔らかさに相反して、アーチがビクッと身体を震わせた。こいつか。アーチを引き込んだのは。
振り返ると、そこには40代半ばくらいの憲兵団の兵服をまとった男が立っていた。にこにこと笑みを浮かべているが――――――温かみを感じない。嫌な笑みだ。
「―――――サネスさん……っ……!」
アーチの反応から手に取るようにわかる。お前はこいつが怖いんだな。
「―――――隊長ってのは、お前かよ……!」
「やめろ、兄貴!違う!サネスさんは……!」
アーチがサネス、と呼んだその男の胸ぐらを掴んで詰め寄った。
「なんのことだ。俺はアーチとは親しいものの、班は違うぞ。彼は優秀だからな。」
サネスは動じることもなくにこにこと話した。
俺は苛立ちを処理しきれないまま首元を締め上げたが、それはリンファによって制止された。
「やめろサッシュ!!………すみません、サネスさん……!」
「――――ちっ………。」
俺が手を離すと、顔色一つ変えずにサネスは襟元を正した。