第65章 脆弱
「―――――俺達の、ためにやろうとしてるんだな?そしてそれは調査兵団を王政が飼い慣らしやすいようにすることと利害が一致するのか。」
「――――そうだ。」
「心配しなくても、そう簡単に俺達は死なねぇよ。」
俺の言葉に、リンファは深く頷いた。
「いくら希望が薄くても――――――もう二度と、奪還作戦のような地獄を見るのは御免だ……。人類は巨人に打ち勝たないと前に進めない。そのために調査兵団がある。調査兵団は俺の誇りで―――――家族同然だ。そんな簡単に決断できることじゃない。」
口にしながら、色んな奴の顔が浮かぶ。
厳しくも憧れるエルヴィン団長やリヴァイ兵長と幹部の皆さん。そしてリンファの横で笑うナナ。熟練の技術を教えてくれる先輩方や同期の奴らと、生意気で有望な後輩たち。皆かけがえのない仲間だ。
調査兵団の仲間を守れるような―――――エルヴィン団長やリヴァイ兵長のような男に、俺はなりたい。
―――――だが、もしどうしてもそんな自分の夢と弟の命を天秤にかけなきゃならないなら―――――俺は当たり前にアーチをとる。頼りねぇかもしれねえが、俺はこいつの兄貴なんだ。
「――――仮に俺達が辞めりゃ、お前も中央憲兵を辞めるんだろうな?そういう話だよな?」
「――――………。」
「――――抜けれるのか?本当に。」
アーチの肩がびく、と強張る。
嫌な想像だが………マシューを人形のように操って何人もの兵を殺した。そんなことを平気でやってのける奴らが、一度取り込んで内情を知った人間を無事に解放するとはどうしても考えられなかった。
「――――……っ……それは――――………!」
アーチが顔を青くして小さく震えたその瞬間を、リンファは見逃さなかった。リンファは昔のようにアーチの手をそっと握って、その怯えた顔を覗き込んだ。
「――――怖いんでしょう?中央憲兵にいるのが。アーチの描いたものと、違うんじゃないの………?」
「…………っ………。」
図星だ。
釘でも刺されたか、実際に抜けようとした仲間の死体でも見ちまったのか―――――、まったくとんでもねぇところに所属してくれたもんだ。