第65章 脆弱
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リンファと共に馬を駆る。
2人でこんなにも遠出するのは初めてのことだ。せっかくの機会なのに、どうしても楽しい気持ちにはなれない。
アーチと相対して、俺は兄貴として何をすべきなんだろうか。その答えを模索しながら道中を進む。
日が暮れる頃、王都の門をくぐった。
勧誘行脚でナナの家に泊まった時以来だが、やはりウォール・ローゼの街々とは物の充実度も活気も人々の表情も全く異なる。嫌な温度差だ。
今日は宿に泊まって、明日、アーチに会いに行く。リンファとはとてもいつものように軽口をたたき合う雰囲気でもなく、口数少なくお互いの部屋に入った。
翌朝――――――王都の中央にある広場で、アーチを待った。リンファと共にベンチに腰掛けて待っていると、リンファが口を開いた。
「―――――何年ぶりかな、アーチに会うの……。」
「そんなに会ってないか?」
「うん、だって私が訓練兵になってから、だから――――――9年か………。会ってもわからないかもしれない。」
そう言って仄かに笑った。
「生意気にはなってるぞ、確実に。――――昔はもっと気が弱くて、可愛かったのにな。」
「そりゃサッシュの弟だから生意気な素質は生まれ持ってるでしょ。」
「うるせぇよ。」
リンファから軽口が出て来るとホッとする。その時、少し離れた場所からアーチがやって来るのが見えた。
「あ、……。」
俺が声をかけようとしたのを遮るほどに、リンファがガタッと立ち上がって大きな声を発した。
「アーチ?!」
その声を聞いて、どこか恥ずかしそうにアーチは目を伏せて近づいてきた。
思春期かよ。
近づいてくるアーチをリンファは小走りに迎えに行き、アーチの前に相対した。
「アーチ……!」
「……お久しぶりです。」
リンファはつま先から頭の先まで何度も往復してアーチを確認して、驚きの表情で言った。
「目線が同じ……!こんなに、こんなに小さかったのに……!」
リンファは興奮した様子で、9年前当時のアーチの身長を示して見せた。アーチはそれに顔を赤くして俯く。