第65章 脆弱
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ナナは仲間の死を目の当たりにすると、すぐに泣くと思っていた。だが壁外調査から戻って殉職した兵士のリストを見ながら着々と執務をこなし、まるで涙も見せずにただ日々を消化していっているようだった。
些細な変化は、まるで自分が生きていてはいけないとでもいうように食事をしなくなっていたことだ。王都招集の時に多少の気分の解放が見られたが、蟠りになっていたものはこれだったのか。
仲間の死を受け入れていない自分にまた嫌悪していた。だが、こうして涙を流せたことできっと仲間の死も、自分自身も少し受け入れられるだろう。
ナナは時折とても不安定で、幼い一面が垣間見える。
その一つが“自責に偏る”ところだ。この機に、それを自覚させる必要があると思った。これから先――――――私と共に、何百人という兵士の死にゆくところを見て行くことになるのだから。
自責の癖は直しておかないと、近いうちにナナ自身を蝕むことになるのは目に見えているからだ。
「――――ナナ。君は自責をしすぎる性質がある。気付いているか?」
「………いえ………。」
ナナはきょとんとした様子で、眉を下げて私の話に耳を傾けた。
「かもれない、で自分を責めたところで本当にそうだったのかは誰にもわからない。そして後悔する“事実”でもなくそれはあくまで“想像”なんだ。切り分けて考えなさい。細かく考えずに全て自分のせいにするのは、実は楽だが―――――ちゃんと考えるんだ。君に落ち度があったならそれは何で、何が不可抗力だった?不可抗力だったことまで、自責する必要はない。」
まるで父が子に説くように静かに、丁寧に、愛情を持って話す。ナナはただ私の目をじっと見つめて、自分の中で思考を巡らせているようだった。
「私の落ち度は―――――誰にも声をかけずに、アーチさんを追ったことと、仲間の死から逃げた事です………。」
少し考えたあと、ナナは目を逸らさずにぽつりぽつりと、話し出した。
「そうか。」
「不可抗力は―――――意識を遮断され、連れ去られたことで壁外調査に出られなかったことです。」