第64章 思惑
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「―――――浮かない顔だな、アーチ。」
「………サネスさん。」
俺は手元にあった手紙を折りたたんで、胸ポケットにしまった。サネスさんは俺の隣の椅子に腰かけた。
ここは王都にある中央憲兵の兵舎だ。
人数が50名に満たない中央憲兵は、警備と王の急な勅命のために王宮に配置されている数名を除いて、この古びた兵舎で執務をこなす。
――――といっても、その多くが王の定めた禁忌を犯す反乱分子の排除に向けての調査に出ているため、ここにそこまでの人数はいない。
中央憲兵の面々は皆飛び抜けて優秀な人材ばかりだ。訓練兵団を含む各兵団から目ぼしい人材を見つけては、直接声をかけて引き抜く。
俺はこのサネスさんに、訓練兵の卒団式で兵団を選ぶ時に声をかけられた。王がいかにこの世界を導いてくださる偉大な存在か、そしてその王を直属で守ることができる中央憲兵の尊さを説かれた。
何より――――“俺”を選んでくれたことが、嬉しかったんだ。
「―――――兄貴が、中央憲兵に俺がいることを納得できないらしくて……話をしに来る、そうです……。」
「弟想いの良い兄貴じゃないか。」
「――――でも王への忠誠心も薄くて、命知らずに壁外に出る―――――馬鹿な兄貴ですよ。」
ふん、と鼻を鳴らして見せると、サネスさんは静かな口調で言った。
「普通はそんなものだ。我々が崇高な志を持っているがゆえに、そう見えてしまうのだろう。……アーチ、君は若干15歳で王に仕える異議とその崇高な使命を理解している。素晴らしい兵士だ。」
サネスさんが俺の背中をそっと撫でる。この人に褒められると、心地いい。