第64章 思惑
壁外調査の目途がまだ立っていないこともあり、団長補佐の仕事がいつもより早く終わった。
久しぶりにゆっくりお風呂を済ませて自室に戻ると、リンファはぼんやりと窓から月を眺めていた。
「ねぇリンファ、大丈夫?元気がない……。」
私は声をかけると、リンファは振り返って愛想笑いを返した。
「あの一件から、ずっと張り詰めてるよね…サッシュさん……。」
「ああ………そりゃ…弟のせいで大事な仲間が死んだとなればな………。」
「リンファも行ってくれるんでしょ、説得に……。」
「ああ。」
「壁外調査への干渉は―――――、おそらくアーチさんはやりたくなかったんだと、そう思うの。だから……彼を、止めてあげて……。」
「……………。」
リンファは静かに目を伏せた。サッシュさんとあれだけ親しいのだから、アーチさんのこともきっと弟のように思っていたはずだ。どれほど苦しいか、少しだけわかる気がする。
私は何も言葉を紡ぐことができないまま、ただリンファの隣に寄り添った。
しばらくして、リンファは小さく口を開いた。
「――――元気がないのは、あたしが自分のことばっかり考えてる最低な奴だって、嫌程自覚しているからなんだ………。」
「え………?」
何のことを言っているのだろう、理解したくて、目を見て話を聞きたくて、リンファの顔を覗き込む。その切れ長で漆黒の瞳には、涙が滲んでいる。
私はリンファの手にそっと手を重ねた。
「話してくれるなら、聞きたい……。」
「―――――……本当は、サッシュと一緒にアーチに………会いたくない……。」
「……どうして……?」
「義父にされてたこと――――――アーチはきっと知ってる。サッシュに、知られてしまう……!」
「…………。」