第64章 思惑
「―――――団長。サッシュです。」
「ああ、どうぞ。」
思いもよらない人が団長室を訪ねてきた。
サッシュさんはあの一件から目つきが変わった。アーチさんを許さない、その強い思いが体中から発されている。
―――――マシューさんの裏切りにより巨人の襲来を受けて死んだ兵の中には、サッシュさんの同期や、目をかけて育ててきた後輩も含まれていた。
直接アーチさんが手を下したわけではなくても、中央憲兵に対する怒りをアーチさんにそのまま向けている、そんな気がした。
「―――――弟に会って話をつけたいんです。」
「なに?」
「中央憲兵の弟を説得したい。あいつは中央憲兵にいるべきじゃないんです。元々思い込むとそれしか見えなくなるタイプで―――――、それが良くない方向に向かってる。何とか俺達が、食い止めないと――――――。リンファと共に、王都に行く許可を下さい。」
拳をぎり、と握りしめてサッシュさんは呟いた。その様子をエルヴィン団長は静かな目で見ている。
「―――――ナナ、アーチは何か言っていたか?」
「はい………。」
話すべきか迷った。
だけど、今隠しておくことでまた後々それが歪みに変わることだってある。サッシュさんを傷付けるかもしれないアーチさんの口から語られた事実を、伝えた。
「全てはリンファを守りたい一心のようでした。中央憲兵に入ったのも………。」
「…………。」
「調査兵団にいる限りいずれ死ぬ運命にある。そこから救い出すために調査兵団を弱体化させる。それが王の望みと通ずる、と――――――。」
「………滅茶苦茶じゃねぇか………。」
「中央憲兵に身を置いた理由はリンファのことだけなのか?」
「リンファへの想いは嘘じゃないと思います。でも―――――、15歳の彼にしては“王の意向”や“王の望み”という言葉が多くて……。あれはきっと一緒にいた隊長じゃない、別の人から影響を受けたのではないかと思います。……むしろその隊長とは合わない様子でした。」
エルヴィン団長はふむ、と考える様子を見せる。