第64章 思惑
エルヴィン団長のこれまでの実績とその圧倒的存在感から、エルヴィン団長が団長として就任してからは調査兵団の支持は右肩上がりだった。
奪還作戦においても、命からがら帰還した一般兵から調査兵団の一般兵の訓練への貢献や、壁外での活躍ぶりを目の当たりにしての称賛の声が広がっていたからだ。
だが、今回の大敗によってその支持は初めて少しの下落を見せた。
壁外調査の時にはまだ青々しかった木々が色づき始める頃、エルヴィン団長は次の壁外調査への目途が立てられずにいた。
「――――ザックレー総統の言う通り、しばらくは堅実に大人しくしておくしかないな。」
「そうだねぇ、今年こそ、奇行種の捕獲と調査の許可を取りたかったんだけどなぁ。」
団長室にやってきたハンジさんが、残念そうに零した。
「すまないなハンジ。」
「いや?エルヴィンのせいじゃないよ!こうやってナナも無事帰って来てくれたし………中央憲兵のヤバさもわかったのが収穫だったじゃないか!」
ハンジさんはあっけらかんとして笑った。その快活さに、いつも救われるんだ。
「あぁそう言えばナナ!新聞見たよ!弟のロイが研究している疫病にも効果が期待できる新薬の治験だっけ?始まったんでしょ?」
「はい、そうなんです。実際に広く使えるようになるのは、まだまだ先だとは思いますが、きっとこれからの人類に有益なものになると思います。」
「へぇ、すごいなぁ……!私も負けてられないや!ナナ、また後で時間あったら寄ってくれる?今試行錯誤しすぎて行き詰ってることがあってさ!それについて話したいんだ!」
「喜んで!」
「ありがとう。待ってる!」
ハンジさんは目を輝かして研究室に戻って行った。その後しばらくしてから団長室の扉がノックされた。