第63章 番 ※
食事を終えて、ナナがどうしても行きたいと言ったためバーに連れて行く。
カウンターの数席だけの小さなバーは、マスターが1人で切り盛りしている。
ここに来るときはいつも一人だった。自分とひたすらに向き合いたい時に、ここに来る。マスターは必要なこと以外話さない寡黙な男だが、それが心地いい。
扉をキィ、と開けると、マスターがいつも通り蝶ネクタイにクセのある白髪を整髪料でしっかりと髪を整えた凛々しい姿で俺を見た。その瞬間、常連の俺に気付いたのか目を少し見開いた。俺の後ろに続いて入ったナナを見て、彼はまた目を見開いたかと思うと――――――とても柔らかく、嬉しそうに微笑んだ。
「――――いらっしゃい。久しぶりだ。」
「ああマスター。ご無沙汰してます。」
「驚いた。君が女性を連れて来るなんて。」
マスターがナナを柔らかい眼差しで見つめた。
「初めまして、ナナと言います。」
ナナも柔らかく美しい笑みを返す。
「マスター、彼女は酒を嗜み始めたところなんだが―――――、何か作ってやって欲しい。甘めで、彼女のイメージに合うものを。」
「お安い御用です。少々お待ちください、お嬢さん。」
「はい……!」
ナナはマスターの手元を終始食い入るようにキラキラした瞳で見つめていた。俺はその横顔を、ただ愛おしく見つめる。
しばらくして、マスタ―が華奢なグラスに入った白く輝くカクテルを差し出した。
「――――どうぞ。」
「わぁ………っ……!」
「白ワインをベースに、ミルクと少しのシロップ、そして桃で風味をつけています。お嬢さんの髪がとても美しいと思ったので、同じ色合いのものに。アルコールも強くなく、甘いので召し上がれるのではないでしょうか。」