第63章 番 ※
「ここは、来たことがあるの?」
一通り夜の街を歩いて、一件の小さな店に入った。
ナナは嬉しそうにきょろきょろと周りを見回しながら問う。
「そうだな……いつだったか、ハンジと来た。あぁそうだ、酔いつぶれた君をリヴァイが連れて帰った時だ。」
「あの時の……!」
あの時も本当は一緒に来たかったんだと言って、微笑みながら食事に手を付けた。
ナナが食事をするところを見ると安心する。
ナナはすぐに自分のことをないがしろにして、食べることを疎かにする。心にダメージを負った時や、多忙になってくると食事をしなくなる。
こうやって連れ出せて良かったのかもしれない。
あの壁外調査の日以来、またナナの体が軽くなっていたことを心配していたからだ。見せないものの、何かが彼女の心を蝕んでいることは把握していた。
「――――最近、君に実家からよく手紙が来ているが―――――何か困っていることはないのか?」
もう一つの気になっていたことを切り出すと、ナナは少し目を伏せて応えた。
「―――――父が、良くなくて……。」
「リカルドさんが?夜会ではお元気そうに見えたが……。」
「私が戻っていたときから、随分痩せたなと思っていたんです。きっと……多忙すぎるんです。ロイが急激に手を広げたものを、今は――――父が1人で守っているので……。もしかしたら―――――また、しばらくの間戻らせて頂くお願いをするかも、しれないです。我儘は承知、なのですが……。」
ナナはナイフとフォークを置いて手を膝に下げ、小さく頭を下げた。
「もちろんだ。なにかあれば言ってくれ。調整しよう。」
「ありがとう―――――……。」
「君の大事なものは、俺も大事にしたい。話してくれて嬉しい。」
俺の言葉に、ナナは少し目を潤ませて微笑んだ。