第63章 番 ※
「美味しい……!」
「………そうか、それは良かった。」
「あれ、食べながら歩くものなんじゃ……?」
俺があまりに不自然に人ごみから遠ざけたからか、ナナが不思議そうな顔で大通りのほうを見た。
「いや、ちょっと諸事情でね。」
「うん……?」
きょとん、とした顔をしたあと、ナナは俺のほうにそれを差し出した。
「どうぞ?すごく、美味しい。」
「いいのか?」
「一緒に食べたい。」
ナナの手を持って、大きく口を開けてがぶり、とそれに食いついた。
「――――……確かに、美味しい。」
なぜかナナは目を開いて頬を染めていた。
「ん?どうした。」
「えっ、いや……あの………。」
「………ん?」
「―――――……大きく口を開けて食べる姿って、なんだか……男らしくて、やらしい……。」
「―――――………。」
「えっ、変ですか、私……。」
「――――言葉を返すようだが、君も相当いやらしかったぞ?まるで――――――。」
その続きを耳元に唇を寄せて囁くと、ナナの頬が更に熱を持った。
「―――――……っ馬鹿!!!」
ぽかぽかと俺を叩くナナの顔に手を添えて、親指で唇についたソースを拭ってその指を舐める。
「さぁ、食べたら次に行こう。もっと楽しいものが見つかるかもしれない。」
「………うん……!」
それからナナは色とりどりのフルーツが並んだ屋台の店主にフルーツの種類について質問攻めにしたり、古本の店で珍しい医学書を見つけて喜んだり、終始幸せそうに笑っていた。