第63章 番 ※
ナナの手を握って夜の街を歩く。
人通りもそこそこだ。開けっ放しのドアから、酒を酌み交わして大きな声で笑い合う人々や、酒の席の始まりを告げるグラスの鳴る音、ウェイトレスを口説く男たち、道端で客を呼び止め誘うウェイター。俺にとってはなんでもないこのよくある景色の全てが、ナナにとって特別なのだろう。
喜々とした表情で忙しく視線を送っては、俺の腕を引いて問う。
「ねえエルヴィン、あれは何?」
「あれは屋台だ。食べながら歩ける、手軽な食べ物を売ってる。飲み物や酒もね。」
「えっ、食べながら歩くの?」
「そうだよ。経験がないか?」
「ない……食べてみたいなぁ…!」
そのおねだりに負けて、大きなソーセージを豪快にパンに挟んだものを買って手渡す。道端で立ったまま食べていいの?と聞きたげに俺を見上げるナナに頷いて促すと、大きな口を開けてそれをほおばった。
「……ん……む!」
「…………。」
さりげなく、人の往来に対して背中を向けさせるようにナナを誘導した。
………大きな口を開けて嬉しそうに食べる顔がなんとも………いや、こんなことを思う俺がおかしいのかもしれないが。
とにかく誰にも見せたくなくて、道の隅に連れて行く。