第63章 番 ※
「補佐官を監禁尋問したのは、彼らの“王が定めた禁忌”に反する因子の排除に当たり、やり方に憤りは感じるものの―――――適正な業務範囲だと認識します。ただ、アレットを脅して壁外調査を攪乱させたことに対しては――――――いくら王直下の中央憲兵であっても、然るべき処罰を望みます。」
「――――物的証拠はあるのか?」
「――――……いいえ。」
「――――なら何も言えんよ。同じ紋章を背負っていようとも、彼らは全くの別の組織だ。王と王政の幹部に突き付けられるほどの確実な証拠がない限りは。」
「―――――…………。」
エルヴィン団長はその拳を強く握りしめた。その様子をザックレー総統は見ていた。
「気になったんだが。そこの補佐官が危険因子として目をつけられているのも問題だと思うが、それはどう弁明する?エルヴィン。」
ザックレー総統が目を細めて私を一瞥した。
「詳しくは不明ですが、どうやら過去に追っていた危険因子と関係があった人物を再度調査し始めているようです。その中で、幼少期の居住地域と風貌が当てはまる、たったそれだけの理由で尋問されました。―――――拘束されて自由を奪われ、危うく女性としての尊厳まで奪われそうになる状態で、です。」
その言葉に怒りが込められているのを感じる。
「――――それは、全く以って遺憾だが―――――……ナナ。」
「はい。」
「―――――君は本当に、危険因子ではないのだな?」
「はい。」
「誓えるのか?」
私はザックレー総統を真っすぐに見つめて、心臓を捧げる敬礼をした。嘘じゃない。私の頭の中にある世界は、この世界にとって有益でこそあれ、危険因子ではないと誓えるから。
「心臓に誓って。」
「――――いいだろう。怖い思いをしたんだろう、無理をするなよ。」
「………ありがたきご配慮、感謝します。」
「中央憲兵が過激な行動を起こす可能性は各兵団共に留意するように。あまりに度が過ぎた場合―――――こちらからも何か仕掛ける必要がある。」
ほんの少しだけれど、ザックレー総統を始め各兵団の主要人物に中央憲兵の異常さを認識してもらえたような気がした。
――――同じ兵服を着て、同じく心臓を捧げた仲間同士で疑心暗鬼に陥るなんて―――――なんて悲しく、虚しいのだろう。