第62章 帰還
「アーチさんは、その隊長という男から私が暴力を受けないように、庇って――――くれたんです……。その、た、隊長という人に………っ……。」
ナナがその時の恐怖を思い出したように身体を震わせた。
「判別できないほど顔を潰すか、人格が壊れるほどに犯されるか、選べと――――――……言われて……っ………。」
「――――ナナ!」
ハンジさんがナナを抱き締めた。息を荒げて怖がるナナをハンジさんが強く抱きしめてなだめてくれているうちに、少しずつ落ち着いていくのが見えた。
「―――――そいつはなかなか、本物だな。」
リヴァイ兵長がぼそっと呟いた。物凄く眉間に皺を寄せて―――――怒りを露わにしている。
「―――――これが大筋とみて間違いなさそうだな。……なんとかこの件に報いたいが、マシューは死んで……中央憲兵の差し金で今回の壁外調査で多くの兵士が死んだことを裏付ける証拠が何もない。」
「…………。」
「…………。」
重苦しい空気が流れる。
「――――サッシュ、弟からなにか接触があれば、必ず知らせろ。今回は咎めないが―――――次は許さない。」
エルヴィン団長の青い瞳が鋭く俺を射た。
「は、はいっ……!」
「――――これ以上ここで話をしても、良くない空気になるだけだ。今後の出方は追って幹部で考えるのがいいんじゃないか。」
鼻をスン、と鳴らしてミケさんが言った。俺がこの場から逃げ出したい気持ちを、察されてしまったのだろうか。
「――――ああ、そうだな。」
こうして、あまりに重く不愉快な事実を知った。
アーチ。
お前は何をしようとしてる?俺はお前と話さなければならない。絶対に………直接的ではないとはいえ、俺の仲間を死なせた落とし前は―――――つけさせてやるからな。