第62章 帰還
「え、マシューは憲兵団からの密偵だったはずでしょ……?あ、サッシュは初耳かもしれないけどさ。憲兵団がそこまですることはあり得ない……。マシューの独断……?」
「―――――私が捕らえられている時に、中央憲兵の“隊長”と呼ばれた男がアーチさんに話していたことから推測すると――――――マシューさんを、その隊長が脅して実行させた……のではないでしょうか……。」
ナナが恐ろしいと言わんばかりの表情で声を震わせて告げた。そんな、やべぇのかよ中央憲兵ってのは………!不安ばかりが募る。
「マシューさんには生まれたばかりの息子さんがいると、話してくれました……。家族を人質にとられたら―――――……やらざるを得ない、と………。」
「――――だろうな。奴の目はすわっていた。腹を括って、何かを守るために他者を殺す覚悟をした奴の目だ。」
「もともと中央憲兵からアーチが課せられた任務はおそらく、ナナの過去に疑わしきものがないかどうかの調査と尋問だけだったはずだ。それをわざわざ攫って混乱させ、更に刺客を潜ませて壁外調査を妨げようとしたのは―――――おそらくその“隊長”が別命を受けて被せたものだろう。」
エルヴィン団長の推測は、俺も正しいと思う。アーチは人を殺すような計画に乗る奴じゃない。
「あの……、俺も、そう思います……!俺が言うのは違うかもしれませんが……弟は、人を殺す計画に乗るような奴ではないんです……!」
必死に訴えてみるも、幹部の皆さんの目は冷ややかだ。俺は息を飲んだ。
「――――私も、そう思います…!」
俺を庇うように、ナナが口を開いた。