第62章 帰還
少し腕を緩めてナナの顔を見つめると、その目じりに涙の痕はなかったことにホッとする。
夕日が差してきらきらと輝いていたステンドグラスも、徐々に陰り始めた。夕暮れが近い。ナナを連れて約束の場所まで帰らねぇと――――――……。
「―――――帰ったら、お前はエルヴィンの腕の中に帰るのか―――――………。」
相反して、このままここでずっとナナを抱いていたいと思う。あと、ほんの少しだけこのままでいさせてくれ。
また、兵士長の顔を取り戻すから。
再びナナの体を強く抱きしめ、その首筋に顔を埋める。
「―――――……ん………。」
「!!」
「………リヴァイ……さん………?」
「………ナナ……。」
ナナは薄く目を開いた。そして、笑った。
「―――――来て、くれた………。」
「ああ。見つけた。」
「―――――迷惑かけて、ごめん……なさい………。」
「もう慣れてる。お前の問題児っぷりにはな。」
「―――――申し訳ないですが、まだ、立てそうに……ないです……。」
「いい。俺が抱いて帰る。」
「………それはちょっと恥ずかしいです……。」
「仕方ねぇだろ、我儘言うな。もう日が暮れる。帰るぞ。」
「―――――あ。」
「なんだ。」
「今、兵士長に戻った………。」
ナナはくすっと小さく笑った。
「――――……意味が分からねぇことを。お前は兵士で、俺は兵士長だ。それ以外の何でもねぇ。」
「――――……そうですね。」
理解したような、少し残念そうな顔をして、ナナは目を閉じて俺に身体を預けた。