第62章 帰還
トロスト区の隅に、誰の信仰も得られていないのであろうさびれた教会があった。
――――おそらく駐屯兵団がもう踏み込んではいるだろう、そうは思ったが―――――引かれるように、その扉を開けた。
古びた長椅子が並び、そこら中埃だらけの教会。
信仰の対象になる偶像までも落ちぶれた姿になっている――――――ステンドグラスの方に目をやった瞬間、心臓が音を立ててひきつった。
ステンドグラスで乱反射する夕日が降り注ぐ中、まるで祭壇の上の生贄のように横たわるのは――――――――
「―――――ナナ!!!!」
俺はナナに駆け寄った。
口に布を噛まされて両手を後ろに強く結ばれたまま、衣服を引きちぎられたように、その白い肌が覗いていた。
触れることを躊躇う。
もし体温が無く、その身体が冷たく冷え切っていたら――――――俺は………。
恐怖が俺の思考を支配する中、ほんの少し、ナナの胸が上下した。
「…………!」
慌ててナナの体を抱き起してその胸に耳を当てると、小さくとくん、とくん、と命を刻んでいた。
心から安堵して長い息を吐く。
その腕にナナを抱くのは久しぶりで、色んな想いが爆発的に沸き上がり、強く強くその身体を抱き締めた。
「――――――……ナナ……っ………。」
お前が俺の元から離れた時、兵士長としての俺を全うすると誓った。
お前を失うかもしれない恐怖と、壁外調査など無視して今すぐお前の元に駆けつけたい想いを噛み殺して、俺はうまくやっただろう?
本当は誰より、悔しくて、怖くて、怒りで震えていた。