第62章 帰還
後ろ手は縛られたままだが、最低限の自由と食事を与えられた。アーチさんがずっと眉間に皺を寄せて辛そうで、私は聞いてみたくなった。
「――――ねぇ、アーチさん。お兄さんは、すごい人ですね。」
「………は?」
「私は訓練兵を経験していなくて――――――、調査兵団に入ってから立体機動を学んだんですが……サッシュさんに装備のメンテナンス方法を教えてもらいました。」
「…………。」
「調査兵団の中でも抜きんでて実力があるのに努力を怠らず、周りに惜しげもなく教えてくれるサッシュさんは、私の自慢の仲間です。」
「―――――うるさい。あなたは人質だって立場わかってるんですか。」
「………ずっとアーチさんのこと聞いてたから、どんな人か知りたくて、つい。」
「……………。」
「なんで、中央憲兵に入ったんですか?」
「……………。」
「………いいですよ、じゃあ私が勝手にしゃべってます。」
「…………。」
アーチさんは怪訝な顔をして、私をチラ、と見て顔を背けた。
「私ね、友達って一人もいなかったんです。ずっと勉強ばっかりしてたから………。」
「…………。」
「でも、調査兵団に来て初めて親友ができたんです。アルルと――――――リンファ。」
「!!」
アーチさんがピクッと反応した。リンファのことも、良く知る仲なんだ。
感情的にさせることができれば、なにかの情報を引き出せる。
「アルルは壁外調査で亡くなってしまったけど――――――……リンファは、今でも私の親友で、彼女がいてくれるから――――――私は頑張れる。」
「…………。」
「いつも高い志で、より強く、より高く飛ぼうとしている。自慢の親友です。」