第62章 帰還
「………大丈夫……、ありがとう、アーチさん………。」
「礼はおかしいでしょう。」
「………私はとても怖くて、あの人が―――――……暴力も凌辱も覚悟した、つもりだったけど―――――……やっぱり怖くて。………庇ってくれて、ありがとう、ございます……。」
震える身体を抑えてそのブラウンの瞳に向かって伝えると、彼は申し訳なさを含んだ顔で、ほんの少し笑った。
「―――――笑うと、とても似てる。」
「え?」
「お兄さんに。」
「!!………知ってたんですか―――――……?」
「はい、サッシュさんから聞いてました。とても優秀で、憲兵団に入ったって……。でも、違うんですね。正しくは―――――中央憲兵団………?」
「――――そうです。いくつか聞きたい。あなたが、王にとって良からぬことを企んでいる可能性を中央憲兵は握っています。心当たりは?」
私は観察していた。
サッシュさんの名前を出した時、僅かに彼の瞳は揺れた。
後ろめたさ、後悔―――――?サッシュさんになにか後ろ髪を引かれているんだ。けれどもう後戻りもできない―――――実直で幼いのだろう。
“王にとって良からぬこと”その言葉は、少なからず自分が王の役に立っているんだと思いたい、思っている心情が読み取れる。
この幼い正義感に満ち溢れた彼には、きっと――――――
何も知らないか弱く可哀想な女でいることが、最も効果的だと思った。
「――――ありません。なぜ、そんなことに……。私は、ただ―――――傷つく兵士の皆さんの役に立ちたくて……入団した、だけなのに…………!」
「―――――………。」
「王は、私をお疑いなのですね……?」
潤んだ瞳で彼を見上げてみる。
少しは狡く、嘘が上手になれているだろうか。
「―――――幼い頃、地下街に通っていたでしょう?」
アーチさんの目が戸惑いに揺れつつ、私を睨む。