第62章 帰還
この身に降りかかる凌辱と暴力を覚悟した。
けれど、思いもよらず私の前に彼が立ちふさがった。
「―――――やめてください。」
「……あ?なんだアーチ。上官に意見するには早ぇぞ。どけよ、そこを。」
部下の反抗に苛立つわけでもなく、怒りを抱くわけでもなく、隊長と呼ばれた男は薄い笑いを浮かべたままだ。
「この人がなにか罪を犯していると決まったわけじゃない。無駄な暴力は必要ない。それに――――――力で虐げて女性を蹂躙するのは――――――……俺が最も許せない行為だ。」
「――――はっ、なんだトラウマでもあるのか?」
「―――――………。」
アーチさんは黙ってその男を睨んだ。
「あぁわかったよ。ちっ、白けたなぁ。あとはてめぇに任せるわ。仲良くおしゃべりでもして、その女から色々と聞き出せよ。」
この男に会ってからずっと警告音のように早く重く鼓動していた心臓が、ほんの少し落ち着いた。
男が教会を後にしようと扉を開いた瞬間、振り返って意味深な言葉を投げた。
「―――――あぁそうだ。調査兵団に無事戻れたら、あのどチビに伝えといてくれよ。『せいぜい背後に気をつけな』ってな――――――。」
「――――――………?」
なんのことだろう、誰のこと………?そんな思いを巡らせていると、アーチさんが纏っていたマントを脱いで私の開いた胸元を隠すようにくるんでくれた。そして私の口に結んでいた布を解いた。
「―――――……腹、大丈夫ですか……任務とはいえ、手荒にして……すみませんでした……。」
目元がサッシュさんにとても似ている。
伏せた目線の先に私の肌が見えたのか、頬を赤らめてパッと目を逸らした。