第61章 謬
「―――――目が覚めました?」
その声のする方に目を向けると、さっきの男の子が椅子に腰かけて私を見つめている。
少しだけ身体が震えるのがわかった。
―――――私は怖いんだ。口を封じられて、手を塞がれた状態で男性と相対するのが………。
「…………っ……。」
「怯えなくていい。話を聞くだけです。」
気を失わせて無理矢理連れ去ったにしては、穏やかな口調で言う。ほんの少し、安堵した。危害を加えたりすることはなさそうだ。
興奮状態が少し落ち着いてくると、途端にみんなのことが心配になる。
急に私がいなくなって、班を編成したり……迷惑をかけているに違いない。
でも―――――エルヴィン団長は……きっと私よりも、壁外調査を優先してくれるはず。そう信じられる。
「―――――あなたの疑いさえ晴れれば、壁外調査が終わったら解放しますから。」
私の疑い―――――――リヴァイ兵士長の言ったとおり、私が外の世界のことを知っているかどうか、を問う気だ。
その時、扉が開く音と、コツコツと歩みを進める音がした。
その音の方に振り向くと、つばの大きな帽子を被った長身の中年男性が視界に入る。
帽子のつばの下から、にやりと細めた目を向けられた瞬間、私の心臓はビリッとひくつくような感覚を覚えた。息が荒くなる。
怖い、怖い、怖い。
――――――顔を見ていなかったのに分かる。
この人はあの夜の―――――――――
「………よぉ、また会ったなぁ?ナナ・オーウェンズ。」
その声を聞いて確信する。
震える身体を抑えて、近寄ってくるその男に目を向けた。男は立ったまま私を見下ろし、右手で私の顎から頬を乱暴に掴んだ。
「――――っ……!」
「――――俺が怖いのか?あの夜もたいそうビビッてたなぁ……。しかし、いい女が怯える顔ってのは心底そそるな。」
「――――隊長、やめてください。無駄に怯えさせる必要はないでしょう。」
その彼は男の事を“隊長”と呼んだ。
やはりそうだ、この切れ長の目元。背を高くして明るい人柄を足せば、彼の兄にそっくりじゃないか。