第61章 謬
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「―――――…ん………。」
ここは――――――どこだろう、私は、なぜここにいる?
今から壁外調査に……行かなくちゃいけないのに。
口には布が噛まされ、外すこともできない。両手は後ろ手に縛られたまま、なんとか身体を起こした。
霞む視界には、高い天井と行儀よく並んだ長椅子。
信仰の対象として崇めるほこりまみれの像。
どうやら廃墟と化した教会のようだ。
そうだ、壁外調査の開門前のあの時――――――
「よし、装備の点検も……準備も大丈夫。」
主軸になる幹部・隊長や班長での最終確認がもうすぐ始まる。こんな私でも一応は医療班の長であって、そこに参加することが許されている。
その時間を待っていると、ざわざわとした喧騒の中で、ふら、と建物の間へ消えて行った兵士を見つけた。
出陣前に―――――どうしたのだろう、少し診たほうが良いかもしれないと、私はその背中を追った。
建物の陰で蹲るその兵士の自由の翼を軽くさすって声をかける。
「医療班のナナです。大丈夫ですか?具合が悪いなら――――――。」
蹲っていたのは、新兵だろうか、まだあどけなさの残る男の子。黒がかったブラウンの髪と、切れ長の目はどこかで見覚えがある気がした。
「――――ああ、来てくれると思った―――――ナナさん。」
「え………?」
「ありがとう。――――――悪いけど、ちょっと我慢して。」
小さく呟いたその男の子の声と共に、腹部に強烈な痛みを感じた。
私の意識は強制的にそこで遮断された。