第61章 謬
「――――おいお前ら。ナナを見捨てるわけじゃねぇ。捜索は代わりを立てる。俺達は、俺達のやることを全うする。」
「―――――………。」
その場が静まり返る。リンファもエミリーも、納得しきれていない表情のままだ。
特にサッシュは顔面蒼白で手が震えていることが、遠目から見てもわかった。やはりなにかに関わっている。とすれば中央憲兵絡みだ、さすがに証拠もないいち兵士をその場で処分するとは思えない。
「――――おい……そんな面で動けるのか。しっかりしろ。壁外調査から帰還した時に、戻って来て俺達を出迎えたナナを泣かせるつもりか?」
「―――――………!!」
「―――――生きて帰る。それが俺達に今できることで、やるべきことだ。配置につけ。」
『はい……っ……!』
リヴァイはマントを翻し、騎乗した。
皆の目が、変わった。
――――私はまた言葉が足りなかったのだろう。あのまま不安と不信感を募らせて出陣していれば、最悪の事態になりかねなかった。
リヴァイの静かな鼓舞は、なによりも効果がある。
「―――――恩に着る。兵士長。」
「―――――……その動揺しまくった頭を冷やせ。あと数秒でな。」
「ああ。」
リヴァイの冷静さに驚いた。今一番、誰よりもナナを探しに行きたいのはお前だろう。
だが、これこそ私がリヴァイに求めた兵士長の姿だ。何が起きても、誰が死んでも取り乱さずその場を最適に見極め、最善の行動をとることができる人物。
少し前まで、任務を無視してナナを助けるために駆け出したお前が。急にその域に達したのには、何か理由があったのか?
そんな雑念を振り払い、開門の時に向けて精神を研ぎ澄ませる。
―――――ナナ、すまない。
だが君ならきっと、わかってくれると思う。
ただ無事でいてくれ。それだけを切に願う。
「開門!!!!全隊、進め!!!!!!」
響く兵士たちの雄たけびに呼応するように舞い上がる砂煙が消えゆく頃、そこにはナナの愛馬だけが取り残されていた。