第61章 謬
「―――――なに――――――?」
一瞬、全ての喧騒が途切れるほどの静寂を味わった。
思考が一瞬停止した俺を横に、リヴァイがエミリーを問い詰める。
「おいエミリー、もう少し詳しく話せ。俺は見たぞ、朝愛馬を引いてここに来るナナを。」
「は、はいっ……数分前まで、いたんです……確かに……。でもっ……今どこを探しても、いなくて………愛馬も置き去りにして……作戦開始のこんな直前に、誰にも言わず―――――どこかに消えるような、人では……ありません……!」
「待ってよ、そんなわけ………。モブリット、すぐに一緒にナナを――――――。」
ハンジが分かりやすく取り乱しモブリットに捜索を指示しようとするが、私はそれを許さない判断をした。
「―――――いやハンジ。もう出立する。そんな時間はない。」
「えっ、エルヴィン?!」
「エミリー、君は右翼伝達班だな。そこに医療班は置かないことにする。中央本隊の医療班は君に任せる。ナナの代わりに入れ。右翼伝達班班長!リンファ!」
「は、はい……!」
「理解したな?」
「……はい……っ!」
私の采配を、リヴァイが肩を掴んで制した。
その目は、静かに怒りを含んでいる。
「――――ナナを見捨てるのか?」
「いや。もし連れ去られていたとしたら――――――、すぐに危害を加えれる可能性は低い。なにかを聞き出す時間が必要だろうしな。早馬を飛ばす。駐屯兵団に捜索を依頼しよう。」
「――――了解だ。」
リヴァイは目を細めて小さく頷き、動揺が広がる班長や隊長に向かって告げた。