第61章 謬
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『――――――何言ってんだお前……おい、アーチ……冗談だろ……?』
『―――――本気だ。兄貴に理解しろと言っても無理かもしれないけど、俺は俺の決めた道を進む。協力してくれないなら―――――用はない。じゃあな。」
「待てよ!アーチ!!!」
俺は俺自身が叫んだ言葉で目を覚ました。
「ん……なんだよサッシュ、うるせぇな………。壁外調査の前日くらい静かに寝ろよ……。」
同室のヴィムから悪態をつかれ、こっちが現実なんだと理解することができた。
「あ、ああ………悪い………。」
嫌な汗でシャツが身体に貼りつく。
夢か………
アーチの何か覚悟したような目がまるで現実のようにありありと思い出される。
実家に帰った時にアーチと久しぶりに話せたのは良かったが、アーチが打ち明けた秘密を巡って、嫌な予感が絶えず俺をじわじわと苦しめる。
アーチは憲兵団に所属する予定だったところを、王直下の中央憲兵に引き抜かれたと言う。謎が多く、そこまで公になっていない中央憲兵だが、あまり良い噂を聞かないのでそれも心配だ。
そして初任務として、ある女を探しているという。
今後この世界を脅かす脅威になり得る、“歳は現在20歳前後、白い髪の、幼少期に王都にいて、地下街に通っていた女”を捕まえる必要があると言っていた。
ナナは白い髪じゃねぇけど、光の加減や見方によっては白髪に見えなくもない。
何より王都育ちなのはよく知ってる。地下街のことでその対象から除外できるかとナナに聞いてみたものの、その返答は、アーチが探している女がナナである線を濃くしてしまった。
よりによって俺の弟が、ナナを狙うかもしれない。
どうしたら阻止できる。エルヴィン団長に言うか。
いや、エルヴィン団長は信じたいが、時に冷徹なところがある。調査兵団を守るためにナナを差し出す決断をされたら―――――もうどうしようもなくなる。
俺がなんとかしないと、俺が―――――………。
考えても考えても、大したことのない俺の頭じゃどうにかできるわけもなく、時間を浪費してここまで来てしまった。
だが、明日からの壁外調査にはナナも出る。決して一人になる時間はない。言うなれば安心だ。