第60章 慕情 ※
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「――――指輪を買おうか。ナナ。」
「………え?」
「――――以前言った、『結婚してくれ』は本気だ。君もずっと側にいると言ってくれた。――――式は挙げられなくても、誓いの指輪くらい贈れるよ。」
情事のあと、身体にまるで力が入らない様子のナナを後ろから抱きしめ、ベッドの中で細く白い指にキスをする。
ナナはくすぐったそうに笑った。
「………ううん、いらない。」
「なぜ?」
「――――もし私が死んだら、他の人を愛して欲しいです。……縛りたくないし、縛られたくない……。」
その言葉を選んだナナの表情は、背中越しで見えなかった。
「――――君は本当に……一筋縄じゃいかないな。普通の女性は喜ぶぞ?」
「母が言ったの。『何が幸せかは、自分で決めていい』って。私は――――結婚しなくても、誓いの指輪が無くても、あなたと一緒に外の世界を見に行く夢をみられたら、それで十分幸せ。」
ナナは少し振り向いて、柔らかく微笑んだ。
彼女のこういう一筋縄ではいかないところが堪らなく魅力的だが、同時に少しの苛立ちも否めない。
縛りたくないと縛られたくない、どちらが本心だ。
俺が死んだら、心から愛しているあいつのところへ帰るのか―――――?
そんな子供じみた嫉妬が掻き立てられる。が、それを見せないようにする術くらい、身につけている。
「――――君がこんなにも根っからの調査兵団気質だとは、知らなかった。嬉しい誤算だ。」