第60章 慕情 ※
「――――ねぇ、エルヴィン。」
「ん?」
「――――嘘をつくのが辛くなったら、言ってね。」
「―――――………。」
言葉の意味を測りかねていると、ナナがゆっくりと身体ごと、俺の方へ振り返った。
そして両手で俺の顔を包み込んで言う。
「ありのままのあなたを知っても、嫌いになんてならない自信がある。――――これは嘘じゃないよ。あなたが大事で、愛おしいから――――………。どんな、エルヴィンでも。」
「―――――………敵わないな…………。」
俺はとても顔を見せられなくて、身体を丸めて自分よりもいくらも小さいナナの胸に顔を埋めた。
ナナは俺をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれる。
彼女は、甘くて優しい香りがする。
温かくて柔らかくて滑らかで――――――
こうしていると、とても幸せな気持ちになる。
俺の過去の過ちも、愚行も、全て赦されるような気がするんだ。
「―――――――――悔しいほど愛してるよ、ナナ………。」
「………うん………ありがとう。」
俺の愛してるに対して、君は決して愛してると返さない。
俺が欲する灼けつくような君の愛は、あいつのところに全て置いて来たのか。
なんて狡くて、純真で、残酷なのだろうか。
抱いてしまえば、それで君への興味もいくらか薄くなるのかと思っていたが、大きな誤算だ。
底なしの沼に、足を踏み入れた瞬間に過ぎなかったと知った。