第60章 慕情 ※
「――――『愛してる』と―――嘘をつけるか?」
「………………。」
「……身体も表情も声も仕草も―――――全て使って、信じさせてくれ。」
彼のその顔は、いつもの大人の余裕なんて微塵もなく、愛情に縋る少年のように見えた。
そんな少しの弱さを見せてくれたエルヴィンが愛おしい。
それは間違いない、私の本心だ。
「―――――エルヴィン。愛してる。」
両手をその逞しい首に回して彼の顔を引き寄せ、その蒼い瞳を覗き込むと、私の瞳が映る。
蒼と紺色がその中で混じり合って、ワーナーさんと語り合った“海”はこんな色をしているんじゃないかと思う。
その海を封じるように瞳を閉じて、その唇に小さく触れるだけのキスをしてから唇の角度を変え、エルヴィンの唇を食みながら、吐息の合間にその言葉を伝える。
「愛してる………、エルヴィン、私は―――――あなたを、愛してる。」
「―――――っ………素質があるよ。今の嘘は――――とても……上手だ………。」
どこか泣き出しそうな顔をして、自分の額を私の額に当てて私の瞳を覗き込んだ。
「―――――知ってる?嘘はつき続けると真実になることがあるって。」
「………さぁ、初耳だ。」
エルヴィンはふっと笑って小さくキスをした。
「この嘘が真実になるまで、そしてなってからも――――――私はあなたと歩いていきたい。ずっと。一人で背負ってたもの、私で良ければ―――――分けて……。」
私の言葉にエルヴィンは目を見開いて制止し、少し切なそうに…けれどどこまでも嬉しそうに笑って、私の体を強く抱きしめた。
「――――それはもはやプロポーズだぞ、ナナ。しかもなかなか痺れる。」
「そう……なるの?」
「――――……俺にとっては今この瞬間も、君への愛を確かめる行為なんだ。―――――ナナ、最後まで、抱いていいか。」
「―――――私も、最後までしたい。我慢しないで………エルヴィンの全部、欲しい……。」